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2006年9月21日 (木)

マッチ・ポイント

京都シネマへ、ウッディ・アレンの監督最新作『マッチ・ポイント』を観に行く。

ウッディ・アレンは、現役の映画人の中では、私が最もひいきにしている人物。まず、知性とバカバカしさが絶妙にブレンドされたシナリオの面白さ。そして、本物の街並や室内で撮られたシーンの1つ1つが、すてきな写真集をめくるように美しい。ジャズやスタンダード満載の音楽も洒落ている。第一、“黒ぶちメガネに洗いざらしの白いシャツ”というウッディのルックスが、私の好みにピッタリなのである。

しかし、近年の彼の作品には、もう一つ魅力を感じ切れなくて(好きだからこそ、それは私にとって、とても辛いことだ)、ちゃんと映画館まで足を運んだのは『ギター弾きの恋』(2001年)が最後になっていた。

それが、今作『マッチ・ポイント』で久々に食指が動いた理由は、ウッディが永年の本拠地だったNYを離れて、本格的に舞台をロンドンに移したから。私にとっても親しみ深い街を、彼がどういうふうに料理するのか、とても興味があった。

で、私の率直な感想はといえば、やっぱり『ビジター試合』を観たような印象を受けてしまった。そう、ちょうど、ナゴヤドームで中日と対戦する阪神タイガースのように、ぎこちなくて、しょんぼりした試合内容…「甲子園での元気はどこ行っちゃったのっ!?」ってツッコミたくなるような感じ(たとえが分かりづらい方、ゴメンナサイ)。

イギリス人である登場人物のセリフ、ロンドンのロケーション、オペラ音楽の扱い方、どれを取っても、ウッディらしい心憎さといったものが感じられなかった。やっぱりそれは、彼がまだロンドンの街や文化を消化しきれていないせいだろうと思う。主役のジョナサン・リーズ・マイヤーもスカーレット・ヨハンセンも良かったし、作品自体も「普通に」面白かったんだけど、「これぞウッディ・アレン映画!」と、言いたくなるほどまでには感銘を受けなかったな~私は。

ただ、この映画の秀逸な点は『マッチ・ポイント』というタイトルに潜んでいる。映画の冒頭、テニスの試合の最中にボールがセンターネットの上で引っかかり、相手か自分か、どちら側のコートに落下するか― というところで、ピタッとストップ・モーションになる。そこへ、「人生は、最終的に運が良いか悪いかで、すべてが決まる。」という、主人公の男の声が挿入される。そして、これとそっくりのシチュエーションが、物語の後半で実際に起こり、しかも、すごく意外な結末となる(まぁ、ちょっと展開に無理があると思うけどー)。

『運の良し悪し』―私たち自身も散々身にしみているように、そこに人生の理不尽さ、不思議さがあり、つまりはそれが、優しい意味でも残酷な意味でも、“人生の面白み”ということになる。この作品には笑いたくなるようなセリフや場面はひとつも登場しないけれど、「話があまりにも理不尽すぎて笑うしかない」という意味では、究極のブラック・コメディだといえる。しかも、幸運(ラッキー)と幸福(ハッピー)は、実は別物だということに気づかされた観客は、心の中で思わずニヤリとしてしまう。このあたりは、ウッディ・アレン独特のユーモア・センスが発揮されていると思う。

たぶん、この作品は、ウッディ・アレン自身が『マッチ・ポイント』に立たされていることをも意味しているのだろう。新たな創作意欲をかきたてるため、彼に数々の名作をもたらしたNY・マンハッタンを捨てて、ロンドンへ移動したことは、彼にとって、ネットすれすれの大胆なシュートを放ったようなものだと思う。それが、彼の映画人生に吉と出るか凶と出るか・・・それは、ウッディ自身の才能よりも、今後の「運」に、委ねられているのかもしれない。

★「ふぉとみっちゃん」が選ぶウッディ・アレン映画ベスト3

①ハンナとその姉妹(1987)・・・シナリオ、カメラ・ワーク、音楽などが、最も面白くて洒落ていて、“ストレート”な作品ではないかと思います。一般的にも、本作か、アカデミー賞を多数獲得した『アニー・ホール』(1977)がウッディ・アレンの最高傑作と目されているようですが、私は断然ハンナ派。場面と場面の間に挿入される小説風のキャプションも、小粋で最高です。

②マンハッタン(1979)・・・①と②は、ほとんど甲乙つけがたい。特に、全編モノクロームで映し出されるマンハッタンの美しい街並は、観るたびに溜め息がこぼれます。知的な同年代の女性と、無垢な少女の間を行き来するウッディ演じる主人公の姿は、今から観ると、ちょっとシャレにならないけれど…でも、シナリオも抜群に冴えてます。

③ラジオ・デイズ(1987)・・・ウッディ作品が好きな人も嫌いな人も理屈抜きで楽しめるエンターテイメント映画。年末にホーム・パーティを開いて大勢で観るのも良いでしょう。他の作品は悪魔的ないし病的ブラック・ユーモアに彩られているけれど、この作品と『カイロの紫のバラ』(1985)は、彼の優しさと良心だけで作られています。それが愛おしくもあり、若干、物足りなくもあり…

…ブラック・ユーモア好きの人間って、やっぱり心根がブラッキーってことになるんでしょうか― むしろ、人は正反対のものに魅かれるからだと、「ふぉとみっちゃん」は信じたいですが。

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コメント

ウッディ・アレン……。映画好きといっておいて見た記憶がない……。うーむ、お恥ずかしい……。
さっそくツタヤに行かなくては……。
最近見た映画といえば、パニッシャー、すっごく意味のない映画でした。
ヤマグッチ氏とは、よくアメコミ系の映画などでよく盛り上がるんですけどね、バットマンとかスパイダーマンとかね、こないだやったスーパーマンのDVDも貸す約束してるんですけど、僕がまだ見てなくてせかされているところです。
エックスメン3のDVDいります?って聞いたら、いるって言うから、貸してあげて、感想を聞いたら1作目と2作目をまだ見たことないことに3作目を見てから気づいたらしく慌てて1と2を手に入れたそうです。

投稿: kawaguchi | 2006年9月23日 (土) 06時43分

わぁ、私の(長ったらしい)ブログ読んでウッディ・アレン観る気になってもらえたらスゴク嬉しいです♪ウッディ初体験なら第3位に推した[ラジオ・デイズ]がよろしいかと・・・ほんと、これは子供から大人からコドモオトナにまで、広くオススメしたいステキな作品です。
私は、小学校低学年のときに[スーパーマン]を観て「スーパーマンよりクラーク・ケントの方が素敵★」と感じてしまって以来の“黒ぶちメガネ好き”・・・そういえば、バットマンもスパイダーマンも、変身前は皆メガネかけるじゃないですか~ベタといえばベタな設定ですね。でも、そういう意味では、私の中ではアメコミの主人公とウッディ・アレンって、つながってるんだなぁ。
劇場へ行きそびれましたが[スーパーマン・リターンズ]どうでした?旧作ファンとしては観たいような観たくないような。。。
近年では、やっぱりスパイダーマンが面白かった。但し、私も「2」の方だけ先に観てしまったので、「1」をコドモオトナY氏にお借りする予定です。

投稿: ふぉとみっちゃん | 2006年9月23日 (土) 12時04分

実はまだスーパーマン見てないんです……
んで、コドモオトナY氏にはDVDをコピーしてわたそうかと思っておるのですが、フォトみっちゃんさんの分もコピーしてY氏にわたしておきますね!

投稿: kawaguchi | 2006年9月23日 (土) 18時15分

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